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Dear my little sister

実家のシーズーは、家に来た順番から私の妹ということにはなっているが、14歳のおばあちゃん。
乳がんが肺に転移して余命わずかの宣告を受け、これが、ほぼ確実に、最期の一緒に過ごせる夏になってしまった。

実家の玄関をくぐって名前を呼んでももうちょこまかとお迎えにやって来ることはなく、ただリビングルームの座布団の上に座って、私を見上げてちいさく尻尾を動かした。
やせ細って、目ばかりきょろきょろ動き、よろよろとしか歩けない。
毛並みは相変わらず綺麗だが、骨の形が触って分かるほどに痩せてしまった。
もう普通のえさはほとんど食べられないというが、私の手から、小さく砕いたパウンドケーキをひとかけら食べ、大儀そうにぺたんと座布団にふせた。
頭をなで、その体温を手のひらに感じつつ、あまりにも小さくなってしまったことにショックで、胸がきりきりとした。

この子がうちに来た時、私は大学生だった。
父が仕事で付き合いがあるというペットショップに母を連れていき「家が汚れるから、絶対犬なんかかわないから」と不服そうだった母が、生まれて2週間のシーズーを抱いてメロメロになって帰ってきて「あまりにも可愛いので飼うことにしちゃった」と宣言し、姉弟全員驚かされた。

初めて家に来た日は、掃除機の音におびえ、大きな声におびえ、毛糸玉のようにちぢこまり、家族全員で息を殺して、ケージの中の小さな暖かい生き物を取り巻いた。

子供のころはやんちゃでよく跳ねて走り回る犬だった。私がベッドの上に並べていた熊のぬいぐるみは全員相撲の相手として床に引きずり出され、ずたぼろになるまで振り回された。

注目を集めて育った犬なだけに、新聞を誰かが読んでいると自分をみろとばかりに新聞に飛び乗り邪魔をして、こっちを見てと甘えた。多分、自分のこと犬だとおもってないんだろうな、というくらい、他所の犬に関心がなかった。

一番家の中で小柄な私のことはなめているんじゃないのか、とたまに腹立たしかったけれど、ボーイフレンドと別れ話をして、夕方一人で帰ってきて、玄関で小さくなって泣いていたときは、私の膝に飛び乗って顔中なめまわしてくれたり、意外と面倒見も良かった。

私がアメリカにすむようになり、年に数回だけ大きなスーツケースで帰ってきて、それを持って再び出かけていくことを知ると、私が帰りの荷造りを始めるとスーツケースの中に入って邪魔をした。いとおしかった。

長い間、本当に、たくさんの、喜びと笑顔をありがとう。

そして、犬を抱き上げた母の後姿の、その肩の薄さにちょっとぎくっとした。
命あるもの、すべからく、老いる。分かっているけど、どうしようもなくさみしい。

「わんわん!わんわん!」
元気いっぱいに駆け寄ってきた甥っ子を抱きしめ、飛び跳ねている若いいのちの力強さを感じた。こうして世代が交代していくのだな、としみじみと思った。

新しい命を生み出して行くことの意味を、なんだかきりきりと感じる夜だった。
by lat22n | 2011-08-12 16:34 | Think


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